この記事では、後継者を娘婿へ指名し社長交代後に起きた失敗事例をご紹介します
経営者のお子様に娘様しかいない会社は、意外と多いのではないでしょうか?
その場合の事業承継の出口としては、M&Aという選択肢もありますが、ここでは親族内承継を選択された先の事例をお伝えします
1.失敗事例の概要
事例の前提情報は以下の通りです
※簡潔にお伝えする関係から、内容ついては分かりやすく変更しています
【事例内容】
・甲社(非上場)は、法人設立50年以上となる老舗のメーカーで従業員は約100名の規模
・社長のA氏(80歳)が創業し、これまで第一線でご活躍されてきており、株式の70%を保有
・A氏には一人娘のB氏(役員であり株式の30%を保有)がおり、会社の経理周りを担当していた
・B氏の夫C氏は、B氏と結婚後に甲社へ入社し、20年以上勤務、実質No2の立場として役員にも就任していた
・C社は従業員からの信頼が厚く、将来は社長へ就任してほしいという期待を持たれていた
・娘婿のC氏は、A社長と経営方針においてやや異なる考えを持っていたが、対立することはなく、娘のB氏とも夫婦仲は良い関係を維持してきた
・A社長は体力的な衰えを感じ、娘婿のC氏へ社長を交代し、勇退された
・新社長となったC氏は、先代の考えを踏襲し、しばらくは体制を変えず経営を続けた
・娘のB氏と婿のC氏には、2人の娘がいたが、2人ともまだ10代で学生の立場であったため、事業を承継するかどうかは未定であった
2.社長交代後に何が起きた?
社長交代と併せ、A氏は保有する株式の生前移転を検討していたところ、顧問税理士から「相続時精算課税制度」の活用を提案され、税制のメリットが受けれる娘のB氏へ全株を贈与した
株式の贈与により、B氏は甲社の100%株主となった
その後、C氏は先代A氏とは異なる方針を打ち出し、様々な施策を考え実行に移そうと、実質の経営権を握る先代のA氏や株主となったB氏へ繰り返し相談をするようになった
しかし、A氏の考えに理解が得られないことに新社長のC氏はしだいに反発するようになり、B氏との夫婦仲も悪化し、ついに離婚を決意した
新社長のC氏は、甲社の経営に嫌気がさすようになり、次第に業績は悪化の一途を辿るようになる
最終的には、C氏は社長を退任し、別法人にて業務を行うようになった
そのため、急遽B氏が社長へ就任し、事業継続を図るも、従業員の統率がうまくできず、業績は芳しくない状況が継続
結局は先代のA氏が経営を立て直すこととなり、再度甲社へ社長として復帰する事態となった
3.では、どうすればよかった?
上記の事例では、事業承継をしたA氏が再度会社再建のために、社長へ復帰する結末となり、振り出しに戻ったどころか、従業員からも見放されるきっかけとなってしまいました
では、どうすればよかったのでしょうか?
まず、今回のポイントとなるのは、以下の2点かと思います
- 経営者となるC氏が株式を保有していない状態で経営ノウハウ等のヒトの承継を進めた
- A社長は、社長交代前にC氏と今後の事業方針について意見のズレがあることを認識しつつも、税務コストのメリットに重点を置き、娘のB氏への株式移転を最優先した点
まず、新社長となるC氏へ株式を移転しなかった点についてお伝えしたいと思います
これまで、娘婿が会社を継ぐケースのご相談に多く遭遇してきましたが、いくら娘と仲が良いとはいえ、自社株を渡すのかどうか?というと
なぜかというと、娘婿との離婚問題が頭をよぎるからだと思います
会社の所有者はあくまで株主ですので、社長が株式を最低でも2/3保有していないと
今回の事例では、先代のA氏がもともと2/3以上の議決権を保有していたため、大抵のことがA氏の一存で決定できたことが当たり前の感覚となってしまい、「株を渡さなくても何とかなるだろう」と慢心していたことが一番の要因です
ですので、まずは後継者であるC氏の立場で物事を考える機会が必要であったのではないかと思います
確かに、顧問税理士の方の提案どおり相続時精算課税制度を活用すれば、
① コストでB氏へ株式を贈与できる
② 将来の相続時における株価評価額を贈与時の評価額で固定できる
というメリットはあります
ですが、事業承継を進める際に、少しでも後継者と経営方針の考え方の違いを感じているなど、違和感を少しでも感じているのであれば、きちんと先代の経営者の気持ちを伝えた上で、
- 後継者の議決権の配慮(経営に支障が生じないレベルの議決権確保)
を検討した上で税制の活用を行う必要があります
専門的には、「所有と経営の分離」と言ったりしますが、
大企業は別として、中小企業は「所有」=「経営」でないと会社運営がうまくいかないケースが多いです
今回の事例では例えば、
① 種類株式や属人的株式を活用し、後継者に渡す株式の量は少なくする代わりに、議決権の割合を多めに設定する
② 活用には注意が必要ですが、納税猶予制度と相続時精算課税制度を併用し、後継者へ株式を贈与する
などの対策により、「後継者への配慮をしながら」税務メリットが得られる各制度の活用について考えることが有効であったのではないかと思います
4.まとめ
この記事では、後継者への配慮を怠り、税務メリットに重きを置いた株式の承継を行ったために、事業承継が振り出しに戻ってしまっただけでなく、非常に大きな損失を被った事例を紹介しました
顧問税理士からの提案は、あくまで税制を中心とした内容になっているケースが多々あります
この記事で紹介をした先は、すでに後継者が出ていってしまわれてからの相談となりましたので、大変苦労した記憶があります
事業承継の方策を検討する際は、目先のメリットを追うあまり、物事の本質を見失わないよう、落ち着いて検討いただければ幸いです
最後までお読みいただきありがとうございました!!
おわりっ
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